2021年のノーベル化学賞について

10月6日(水)、スウェーデン王立科学アカデミーは、2021年のノーベル化学賞を、ドイツのマックス・プランク石炭研究所ベンジャミン・リスト教授(53)、アメリカ合衆国のプリンストン大学デービット・マクラミン教授(53)に授与すると発表しました。
お二人の業績は、環境に優しく、安価で効率的な「不斉有機触媒」の開発で、その研究成果は抗インフルエンザ薬「タミフル」などの製造にも使われているとのことです。

ここで、「不斉有機触媒」という言葉の意味を若干補足します。

「有機触媒」・・・「触媒」は、特定の化学反応の反応速度を変化させる物質で、それ自体は反応の前後で変化しないものをいいます。一般には、反応を速くするものを触媒と呼んでいます。(厳密には、反応速度を大きくする触媒を「正触媒」、反応速度を小さくする触媒を「負触媒」といいます。)
高校化学の教科書にも触媒が出てきますが、一般的には金属の触媒です。ここでは、「有機触媒」ですから、有機化合物、つまり炭素や水素などでできている触媒だということです。

「不斉」・・・分子の中には、下図のように、同じような構造をしているが、ちょうど鏡に映したような立体構造にあり、2つの分子は重なり合うことがない分子が存在します。(このような関係を鏡像関係といいます。)(右手と左手は鏡に映したような関係にありますが、重なり合うことはありません。)
例えば、柑橘類の香りの成分であるリモネンという分子にも鏡像関係にある2種類の分子が存在します。そして、そのうちの一方はレモンの香りがする化合物であり、もう一方はオレンジが香りのする化合物というように、鏡像関係にあるだけの違いで性質が異なっていることがあります。
そのほかにも、鏡像関係にあることによる化合物の性質の違いがあります。調べてみると面白いかもしれません。

下図:科学技術振興機構(JST)のWebページより

共同発表:新しいアミン酸化酵素の開発に成功~高収率、高純度で医薬品の生産が可能に~