2022年5月7日、テスラやスペースXのCEOとして有名なイーロン・マスク氏が「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ消滅するだろう」とツイッターに投稿しました。
また、2019年には、はじめて出生数が90万人を割り込んで約86万5千人となり、「86万ショック」という表現で報道されました。今年も、「縮むニッポン : 総人口64.4万人減少、東京26年ぶりにマイナス」といったタイトルのニュースが流れました。
「少子高齢化」、「人口減少」は、「日本の課題は?」と聞かれたとき、すぐに思いつく回答の一つです。
しかし、現状はどうでしょう? 課題の解決に向かっているでしょうか? その兆しがまったく見えていない残念な現状があるように感じます。
今回は、少子高齢化、人口減少の現状等について調べてみます。
少子化、人口減少をめぐる現状
日本は、少子化が急速に進展した結果、2008年をピークに総人口が減少に転じており、人口減少時代を迎えています。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、2020年で1億2,571万人の日本の総人口が、2050年には1億人を下回ることが予測されています。
人口が増えるか、現状維持であった日本にとって、人口減少という現象ははじめての経験であり、それだけに先を見越した強力な対策が必要であったはずです。
以下、内閣府「令和3年版 少子化社会対策白書」等の内容を引用します。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」は、我が国の将来の人口規模や年齢構成等の人口構造の推移を推計している。このうち、中位推計(出生中位・死亡中位)では、合計特殊出生率(15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)は、実績値が1.45であった2015年から、2024年の1.42、2035年の1.43を経て、2065年には1.44へ推移すると仮定している。最終年次の合計特殊出生率の仮定を前回推計(平成24年1月推計)と比較すると、30~40歳代における出生率上昇等を受けて、前回の1.35(2060年)から1.44(2065年)に上昇している。
この中位推計の結果に基づけば、総人口は、2053年には1億人を割って9,924万人となり、2065年には8,808万人になる。前回推計結果と比較すると、2065年時点で前回の8,135万人(長期参考推計)が今回では8,808万人へと673万人増加している。人口が1億人を下回る年次は前回の2048年が2053年と5年遅くなっており、人口減少の速度は緩和されたものとなっている。
生産年齢人口は、2056年には5,000万人を割り、2065年には4,529万人となる。総人口に占める割合は、2065年には51.4%となる。
65歳以上人口は、2042年に3,935万人でピークを迎え、その後減少し、2065年には3,381万人となる。総人口に占める割合は、2065年には38.4%となる。
図2 我が国の総人口及び人口構造の推移と見通し(内閣府「令和3年版 少子化社会対策白書」より)
人口構成も変化し、1997年には65歳以上の高齢人口が14歳未満の若年人口の割合を上回るようになり、2017年には3,515万人、全人口に占める割合は27.7%と、増加している。他方、15歳から64歳の生産年齢人口は2017年の7,596万人(総人口に占める割合は60.0%)が2040年には5,978万人(53.9%)と減少することが推計されている。
表1 諸外国における年齢(3区分)別人口の割合(内閣府「令和3年版 少子化社会対策白書」より)
世界全域の年少人口割合(国連推計)は、25.4%であるが、我が国の総人口に占める年少人口の割合は、12.0%と世界的にみても小さくなっている。日本以外では、シンガポール12.3%、韓国12.5%、イタリア13.0%と、相対的に合計特殊出生率が低い国は年少人口割合が小さくなっている。
図3 出生数及び合計特殊出生率の年次推移(内閣府「令和3年版 少子化社会対策白書」より)
諸外国の合計特殊出生率の推移
図4 諸外国の合計特殊出生率の動き(欧米)(内閣府「令和3年版 少子化社会対策白書」より)
諸外国(フランス、アメリカ、スウェーデン、イギリス、ドイツ、イタリア)の合計特殊出生率の推移をみると、1960年代までは、全ての国で2.0以上の水準であった。その後、1970年から1980年頃にかけて、全体として低下傾向となったが、その背景には、子供の養育コストの増大、結婚・出産に対する価値観の変化、避妊の普及等があったと指摘されている。1990年頃からは、合計特殊出生率が回復する国もみられるようになってきている。特に、フランスやスウェーデンでは、合計特殊出生率が1.5~1.6台まで低下した後、回復傾向となり、2000年代後半には2.0前後まで上昇した。
図5 各国の家族関係社会支出の対GDP比の比較(内閣府「令和3年版 少子化社会対策白書」より)
家族関係社会支出の対GDP比を見てみると、我が国の家族関係社会支出は、児童手当の段階的拡充や、保育の受け皿拡大により、着実に増加してきたが、1.65%(2018年度)となっている。国民負担率などの違いもあり、単純に比較はできないが、フランスやスウェーデンなどの欧州諸国と比べて低水準となっており、現金給付、現物給付を通じた家族政策全体の財政的な規模が小さいことが指摘されている。
少子化対策に成功している海外の事例
北欧諸国やフランスなどでは、政策対応により少子化を克服し、人口置換水準近傍まで合計特殊出生率を回復させている。
※人口置換水準:人口が増加も減少もしない均衡した状態となる合計特殊出生率の水準のこと。若年期の死亡率が低下すると人口が減りにくくなるので、この水準値は減少する。現在の日本の人口置換水準は、2.07(平成27年、国立社会保障・人口問題研究所)。
【フランスの例】
① 家族給付の水準が全体的に手厚い。特に、第3子以上の子をもつ家族に有利になっている。
② かつては家族手当等の経済的支援が中心であったが、1990年代以降、保育の充実へシフトし、その後さらに出産・子育てと就労に関して幅広い選択ができるような環境整備、すなわち「両立支援」を強める方向で進められている。
【スウェーデンの例】
40年近くにわたり経済的支援や「両立支援」施策を進めてきた。多子加算を適用した児童手当制度、両親保険(1974年に導入された世界初の両性が取得できる育児休業の収入補填制度)に代表される充実した育児休業制度、開放型就学前学校等の多様かつ柔軟な保育サービスを展開し、男女平等の視点から社会全体で子どもを育む支援制度を整備している。
【フィンランドの例】
ネウボラ(妊娠期から就学前までの切れ目のない子育て支援制度)を市町村が主体で実施し、子育てにおける心身や経済の負担軽減に努めている。
日本では、「少子化社会対策大綱」を閣議決定するなど、少子化の対策に関する方針を示してはいます。
しかし、児童手当や高等教育の修学に関する経済的支援が、大綱が示された時点で「検討」段階にあるなど、目標として掲げている「希望出生率1.8」を実現するためには多くのハードルがあるように感じます。
図6 少子化社会対策大綱のポイント
結婚をめぐる意識
図7 独身でいる理由(内閣府「令和3年版 少子化社会対策白書」より)
未婚者(25~34歳)に独身でいる理由を尋ねると、男女ともに「適当な相手にめぐり会わない」(男性:45.3%、女性:51.2%)が最も多く、次に多いのが、男性では「まだ必要性を感じない」(29.5%)や「結婚資金が足りない」(29.1%)であり、女性では「自由さや気楽さを失いたくない」(31.2%)や「まだ必要性を感じない」(23.9%)となっている。さらに、過去の調査と比較すると、男女ともに「異性とうまくつきあえない」という理由が増加傾向にあり、女性では「仕事(学業)にうちこみたい」、「結婚資金が足りない」という理由も増加傾向にある。
出産・子育てをめぐる意識
図8 妻の年齢別にみた、理想の子供数を持たない理由(内閣府「令和3年版 少子化社会対策白書」より)
予定子供数が理想子供数を下回る夫婦の理想の子供数を持たない理由としては、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(56.3%)が2010年の前回調査(60.4%)からは低下したものの最も多く、30~34歳で8割を超えている。次に多いのが、「高年齢で生むのはいやだから」(39.8%)や「欲しいけれどもできないから」(23.5%)であり、それぞれ前回調査から上昇している。これらを年代別にみると、年代が高くなるほど、その割合が高くなる傾向がみられ、40~49歳ではそれぞれ、約5割、約3割となっている。
大学の授業料など、子育てや教育にお金がかかり過ぎることが子供を多く持たない理由となっていることは頷けます。これまで、日本の社会では、子育てに係る費用の負担は家庭に大きく委ねられてきました。今後は、経済的支援を含め、”子供は社会の宝”として、社会全体で育てる意識を持つことが大切だと思います。
このほかにも、長時間労働や女性が出産後にスムーズに職場に復帰できる環境など改善すべき課題は数多くあるようです。
おわりに
総人口が減少していることも課題ですが、上図のように、高齢世代にボリュームがある年齢構成はさらに大きな課題です。現役世代が高齢者の年金や医療などの社会保障費を支えていくための負担が増えていくからです。(私自身は、今後とも身体が続く限り何らかの仕事に携わりながら納税に努め、できるだけ現役世代のお世話にならないようにしたいと思いますが。)
また、人口減少をポジティブに捉えることができる視点があれば、それを政策に反映するということも考えられるかもしれません。
いずれにしても、人口減少、少子高齢化は、数十年前に予見されていた課題です。にもかかわらず、日本では改善の兆しが見えていないのが残念でなりません。
この数十年、政治や国家行政を担ってきた人々、人口減少を日本の大きな課題として扱う役割を担ってきた報道関係者などを含め、我々の世代は現在の状況をきちんと振り返る責任があるように感じます。
北欧諸国やフランスなどのように子育てに対する経済的支援などにより少子化を克服し、合計特殊出生率を回復させている国はあります。日本でも、実効ある政策により、少子化に歯止めをかけ、将来にわたって持続可能な安心できる制度を構築していくことが期待されます。
「子どもの7人に一人は貧困」という現実。かつては存在していなかった「子ども食堂」が必要な社会、児童手当や高等教育の修学に関する経済的支援が十分とは言えず、子供を持つことをためらってしまうような子育ての環境。このような状況を看過していていいのでしょうか。
これからの時代を担う皆さんには、是非、未来の日本のため、いま本当に優先すべき施策は何かを見極めてほしいと願います。今後、東桜学館から国の行く末を担っていく高い志を持った有能なリーダーが現れるかもしれません。是非、誰もが安心して子供を産み育てることができる社会。そして、子供たちが、普通に食事をして、普通に勉強をして、夢や目標を持ちながら社会人となり、自分なりの自己実現を果たすことができる社会を構築してくれることを期待したいと思います。